『 (タイトル) 』



 土曜。午前11時。ダンスレッスンスタジオ。
 レッスン中の春香と千早。フロア、鏡の前。ジャージの2人。
「わ、わわっ!」
 転ぶ春香。呆れる千早。
「春香、今日はダンスレッスンの仕上げのはずよ」
「えへへ。ゴメンね、千早ちゃん。もう1回、いいかな?」
 千早の違和感。体のキレが悪い春香。
「なんで昨日より動きが悪いの?」
 千早の焦り。
 ダンスレッスンが仕上がれば、週明けからは歌のレッスンというPとの約束。
 千早のため息。春香しょんぼり。
「あなたにはプロ意識が足りないのよ!」
 つい声を荒げてしまう千早。
 すぐに後悔。気まずい。春香の顔を見るのがつらい。
 スタジオを出て行く千早。声を掛けられない春香。


 ベンチに座る千早。ため息。
「あ、いた! 千早さーん」
 顔を上げる千早。廊下の先に美希。
「千早さん今日はレッスン午前だけで、午後フリーだよね?」
 勢い良く隣に座る美希。
「お昼食べに行こう! 美希ねー、千早さんの為に美味しいお蕎麦屋さん調べて来たの!」
 最近お蕎麦が気になっている、という話は先日のトーク番組でしただけ。
 オンエアはまだ先。
「美希……その話、誰から聞いたの? 私の今日のスケジュールは?」
 きょとん、とした顔の美希。
 真剣な顔の千早。


 転ぶ春香。汗だく。12時の合図。
 床に両手を突く春香。視界につま先。戻った千早。
「明け方まで長電話なんて、ダメじゃない」
 顔を上げると、怖い顔をした千早。
「今日はダンスレッスンだって知ってたのよね?」
「だって、美希が千早さん、千早さんって嬉しそうにしゃべるから……」
 春香、半泣きで千早を見上げる。
「私だって……」
 千早、ドキッ。
「今日の午後のオフ、無しだから」
「え?」
「今日中にダンスレッスン仕上げるの。16時から、レッスン再開よ」
 携帯取り出し、春香に見せる。Pから『予約できた。OK、頑張れ』メール。
「そうだよね。へへ。私、頑張んなきゃ!」
「16時にはプロデューサーも来るわ。それまでは、自由時間よ」
 ジャージのポケットから鍵を取り出す千早。手渡し。
「このフロアのミーティングルームB室、16時まで使えるわ」
 春香、ピンと来ない。
「仮眠しなさい。3時間でも眠れば、ずっと楽になるから」
 照れと気まずさで、春香の顔見られない千早。
 背中向け、立ち去ろうとする千早。
 慌てて、千早のジャージの袖を掴む春香。
「えっとね、千早ちゃん……」
 千早、最後に一言。
「            」


                                          完

 

イラスト協力:晴嵐改様(blog

 

 

 

 
     
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