"He
is an oyster of a man."
【遠くへ行きたい】
パタパタと事務所内を走る音がする。2つ。
もはやサンダルの定番となった、穴だらけのスリッパのようなクロックスの足音だ。目にも鮮やかな原色の樹脂素材が、真新しい塩ビタイルの床を叩いて渡る。
「へっへーん。ピヨちゃん遅いよーだ!」
「その程度の機動力では、我々を止めることなど、できないのだー!」
まぁ、収録再開の見通しが付かないからという理由で事務所に戻るのは構わない。移転してきたばかりの事務所が広くて嬉しい気持ちはよく分かる。けれど、それは事務所内でみんなを支えるスタッフに迷惑をかけていい、という事ではない。決して。
「亜実ちゃーん! 真美ちゃん! 待ってってばー!」
……仮に、そのスタッフの筆頭が楽しそうにしていても。
こぼれそうなため息を抑え、眼鏡の下で目頭を押さえ、かろうじて冷静さを保つ。
「はいはい、2人とも――」
最大限の努力を振り絞り、なかなかの完成度と自認できる笑顔で振り返ったその瞬間。
ガシャン。
『何か』が割れる音がした。
動きが止まった3人の足元に、いくつかの欠片に砕けた『何か』が落ちている。
真美が、それを拾い上げ、ゆっくりと元の形に戻そうとする。
白い、コーヒーカップとソーサーだ。
「これは、不幸な事故だったのだよ、ピヨちゃん」
「え? わ、私ッ!?」
事務所移転のお祝いにレコード会社から届いたリチャード・ジノリのロイヤルブルー、17ピースセットの内の一客。
来客用に丁度いいわね、と小鳥さんと喜んでいたのに。
まだ、一度も使ってないのに……
とりあえず、話をしましょう。ええ、ゆっくりと。
「亜実、真美」
私は椅子から立ち上がり、ゆっくりと2人に向き直る。
「真美少佐! 連邦の新型が来るぞ!」
「慌てるな亜実大尉! 当たらなければどうという事はない!」
背を向け、一目散に走り去る二人にとりあえず『走るな』、と声を投げつける。
まったく……
割れたのが一客だけだったのがせめてもの救い、と考えるべきなんだろうか。
いやいやいやいや、なんで壊れる前提で考えなきゃいけないのよ! おかしいでしょ!?
「ああ、もう嫌」
割れた白磁の破片を前に、軽いめまいを感じ、意図せずその場にしゃがみ込む。
「いっそ、どこか遠くへ行きたいわ」
「ああ、良かった」
「うわぁっ! プロデューサー、いたんですか!?」
思わず立ち上がって飛び退いてしまった。
この人はいつも、いつの間にかそばにいる。
「あ、ごめん」
この人はいつも、ボソッと喋る。
「いえ、別に謝ることじゃないんですけど」
大袈裟に驚いてしまった事が申し訳なく、慌ててフォローする。
はは、と頭をかく仕草が、妙に子供っぽく見えた。
「で、『良かった』って何がですか?」
「律子、遠くへ行けるよ」
無邪気な笑顔でいそいそと、カバンの中から企画書を取り出すプロデューサー。
私はつい、企画書よりもその笑顔に目を向けてしまう。
身長、170cmちょっと。年齢、26歳。
いつもサイズの合っていない、少し大きなスーツを着ている人。
髪型には無頓着。それでも清潔感があるのがせめてもの救い。
寡黙。無口。いつも言葉足らずな人。
彼の現在の職業は、私のプロデューサー、兼
765プロの事務員。
【お断りです】
小鳥さんが、プロデューサーを引っ張っていく。
「じゃ、企画書読んでおいて」
そう言い残し、プロデューサーは小鳥さんのPCの前へ。
ああ、そういえば小鳥さんがどうしても数字が合わないって言ってたっけ。
私は席に戻り、プロデューサーから受け取った企画書の表紙を見る。
それは、次の改編期合わせの旅番組の企画書だった。
男女5名の若手タレントが、それぞれ5つの地域――東北地方・関東地方・中部地方・近畿地方・中国地方で一人旅を行い、スタジオでプレゼンし、『旅の鉄人』が評点するという企画らしい。
旅をする5名は調整中らしく、企画書には8人の名前があった。私を含め、Dランクアイドルが多い。
一方で、『旅の鉄人』候補には俳優、“世界の五神”こと五神武彦氏の名前まである。他、歌手や評論家など、こちらはまさに大御所がズラリだ。番組構成としては、上手いバランスだと思う。
さて、もう少し細かい話をプロデューサーの口から聞きたいのだけど。
「ありがとうございます! さすがですねー」
小鳥さんの声が聞こえる。問題は解決したらしい。
「あ、いえ。大した事じゃ」
何度も頭を下げる小鳥さんに両手を振って、プロデューサーが困った顔をする。
まったく、どっちが先輩やら……
とはいえ、残念ながら私や小鳥さんではどうしたって勝てないのだ。
実質、今の765プロの急成長を破綻無く支えているのはプロデューサーの実力だ。
旧帝大在学中に日商簿記1級を取り、今は税理士と中小企業診断士の資格を持っている。
噂では、公認会計士の短答式試験もパスしたけれど、論文式試験で落ちたとか。
これは、本人に聞いた訳じゃないけれど。
「どう?」
プロデューサーはよく主語を省く。今回は、まぁ誤解のしようもないけれど。
「いいですね。2時間番組なら、私のパートのオンエアは15分ってとこですか?」
「局とスポンサー次第。もしかしたら3時間枠になるかも」
「それはそれは」
このプロデューサーは、本当に敏腕だと思う。
労働生産性では律子がトップ――そう、語る時、プロデューサーは本当に嬉しそうな顔をする。
あずささんや千早、春香に比べると、私は地方回りが多いし、やよいはラジオや雑誌媒体が多い。
ラジオや雑誌媒体は地域密着性が高く、色々とお土産がもらえる仕事が多い。収録の最初に、今日はお土産がもらえると聞いた時のやよいのがんばり方は、本当にすごい。それが食べ物だと、なおさらだ。
地方局は、東京から来るタレントのスケジュールを中心に収録を組み立てるので、私達の側が振り回されることが少ない。また、長距離移動の間は他にする事がないので、睡眠か受験勉強のどちらかに当てられる。そして、後者だった場合、隣には最高クラスの家庭教師が付く格好だ。
もっとも、私自身は進学するかどうか、まだ決めかねているけれど。
「『遠くに行ける』って言いましたけど、行く地域はスタジオでのくじ引きで決まる、って書いてありますよ。関東地方を引いたら、行けても茨城か群馬ですよね?」
「ああ、それは大人の事情で」
なるほど、これはスポンサー集めの為の仮本な訳ね。
「律子は中国地方担当。行き先は、広島」
確かに、遠い。前に行ったのはいつだったろう。一度だけ、広島市民球場でイベントをやったっけ。ああ、球場名は言っちゃいけないんだったかしら。
ただ、前回と違って今回は旅番組での広島紹介という訳だから……少し、嫌な予感がする。
私の表情の変化には気づいただろうか? プロデューサーは特に何も言わない。
プロデューサーが隣の空席に座り、手帳を開いて打ち合わせの内容を見せる。驚くほど綺麗な読みやすい字で、罫線の間を隙間なく、きれいに埋めてある。
・
秋月律子の情報収集は全てネットで行う。他の4人の手法を非効率、古いやり方、と指摘。
=twitterで呼びかけフォロワーから情報。他。ブログ検索、Yahoo!知恵袋
or NAVERまとめ。
・
現地商店街、ホテルとのタイアップもあり、ルートは半固定。以下は必須。
=昼食・広島冷麺、夕食・牡蠣尽くし。お土産は事務所仲間向けに川通り餅と熊野の筆。
・
フリータイムは4時間ほど。応相談。実際に希望があれば。宮島? ドーム?
=収録行程は2泊3日。最終日は朝一にて戻り。状況次第で短縮可能。
やっぱり……そうなるわよね。
私はその手帳を閉じると、プロデューサーに手渡し、告げた。
「残念ですが、お断りです」
プロデューサーの真ん丸の目に、私は説明の必要性を痛感する。
あまり言いたくはないのだけれど、致し方無し。
そしてここから約30分、私が、なぜこの企画に参加出来ないかを語る事となる。
【怒ってません】
遠慮がちに肩を叩く雑誌に起こされて、私は窓の外を見た。
見上げれば、JR品川駅という表示。ああ、もう着いたんだ。
瞬きをしたら、着いていた。まるでそんな状態だった。
テレしず――テレビ静岡でのレギュラーの収録が終わっておよそ1時間半で品川まで来れるのだから、時間効率は決して悪くない。時計を見ると17時半。いつもよりずいぶん早い。
いつもは簡単に番組の皆さんと食事をしてから帰るのだが、今日は経費削減との事で食事会は無し、早めの解散だった。少し寂しい気はするが、時世柄、致し方なしとも思う。
「いつも行ってる和食処、好きなんですけどね……」
自腹で、となると少し思い切りの要る価格帯のお店だ、とは知っている。キャリーケースを頭上の荷物棚から取り出しながら、プロデューサーが呟いた。
「予約してあるんだ」
「え?」
相変わらず唐突だ。
「たまには夕食、一緒にどうだろう?」
特にからかっている訳でも、冗談を言っている訳でもないらしい。
「ごちそうしてくれるなら、行きます」
「しっかり食べてくれると、嬉しいな」
プロデューサーが、ニッコリと笑った。
「帰らせて頂きます」
プロデューサーに、ニッコリと笑った。
私はわざと勢い良く踵を返す。白いロングワンピースのすそが一瞬、大きく輪を作る。
プロデューサーは慌てて私の前に回り込む。
「支払いは持つよ?」
「そこじゃありません!」
ぷい、と顔を背けてみせる。
このプロデューサーは、完全に分かってて言っている。当然、私のこの反応も想定済みなのだろう。だからといって、はいそうですかと手に乗る気はない。一切。断じて。
「この前言ったじゃないですか! 私、牡蠣はダメだって」
私達が言い争っているのは、駅ビルの4階にあるお店の前だ。
その店の名前は、『グランド・セントラル・オイスターバー&レストラン』だった。
「とりあえず予約してあるから、入ろう。牡蠣以外でも美味しいお店だから」
声をひそめるようにしてプロデューサーが視線を走らせる。その視線の先を目で追うと、お店の入り口に、まるでホテルのコンシェルのようなスーツ姿の女性がいた。
――目が逢う瞬間、微笑まれてしまった。
「ね?」
ね、じゃないですよ、もう! そんな笑顔向けないでください!
勝負有り、と判断されたらしく、プロデューサーは入り口の女性に予約名を告げる。
私はため息をつき、きれいなお店のロゴマークをじっと見ていた。
牡蠣がダメ、というのは正確ではない。なにせ、私は牡蠣を食べた事がないのだ。
小学生の2年だったか3年だったか、細かい時期は忘れてしまったけれど、自営業だった父が親戚から届いたといって、喜んでいたのが牡蠣だった。
確か母はフライにしようと言ったのだけど、父が何かの映画で見た食べ方をしたいと言って聞かず、生牡蠣にレモンを絞って食べた。その結果、私は4日間ほど父の呻き声を聞きながら生活する事となったのだ。
子供にはまだ早い、といって食べさせてもらえなかった事を、心底感謝した。
以来、牡蠣には手を出していない。給食で何度か出たものの、そんな日は決まってクラスの友達に提供していた。
本当の意味での、食わず嫌い。
でも、それで人生損をした事は一度も無かったし、別にこれからも――
ああ、違う。
私は今、牡蠣が嫌いだ(というか、食べたくない)という理由だけで仕事を断ろうとしている。人によっては、喉から手が出るくらい欲しいはずの内容。きっとプロデューサーが、色々と手を回して掴んでくれたであろう仕事だ。
「怒ってる?」
プロデューサーが、目の前にいた。表情を見る限り、本気で心配している訳じゃ無さそうで、牡蠣を食べるかどうかはともかく、店に入るまでは確信しているのだろう。
アメリカンテイストな店内は、雑多な空気を演出してはいるが、どこか洗練されている。18時という時間のせいもあるだろうけど、お客さんも大勢でほぼ満席だ。
「怒ってません」
むしろ、この前の私がいかに子供だったかを反省している訳だけど、ここで私が暗い顔をしても、誰の得にもならないから。
だから私は、最高の笑顔で言った。
「プロデュース、全部任せます。美味しい牡蠣、食べさせてください」
プロデューサーは真剣な顔をして、「任せろ」と頷いた。
【どうして?】
鮮やかな赤と白とのテーブルクロス。その上に、2人分のグラスが並んだ。
「本当はシャルドネでも合わせたい所なんだけど」
私達は、トニックウォーターで乾杯をする。仕事の終わりに。一日の終わりに。
ひとくち口に含むと、硬質の気泡がパチパチと弾ける。柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。口の中が引き締まる。
「さっぱりしてますね」
「ああ。これが、大事なんだ」
注文は、全てプロデューサーにお任せする事にした。だから、私はただ店内を眺めていた。
カントリー調、あるいはウエスタンとも違う、アメリカンテイスト。木とレンガ。アーチ状の高い天井。
スタッフさんにもお客さんにも外国の方が多く混ざっていて、とても国際色が強い。
「いい雰囲気だろ?」
「芸能人がお忍びで、ってお店じゃないですね」
「今のうち、だけだね。律子もそのうち来れなくなる」
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、しばらくはプロデューサーを信じて、頑張ろう。そう思う。
やがて、眼鏡を掛けた若い女性店員さんが、大きな皿を運んできた。
そのお皿には、パセリとレモン、タルタルソース、そして茶色の塊が載っていた。
「まずは、『フライドオイスター NYスタイル』。苦手意識を消そう」
プロデューサーはカキフライをフォークで刺すと、タルタルソースをすくい、レモンを絞る。
さぁ、と視線で促され、私も見よう見まねでそれにならった。
フォークの先が、一瞬の抵抗の後、スッと刺さる。衣の雰囲気はフライというより、唐揚げだ。
「サクサクとした衣が、スナック感覚で食べられるんだ。きっと、気に入るよ」
プロデューサーがそれを口に放り込む。唇が合わさっているのに、ザクザクという音が聞こえた。
一瞬、苦しそうにしている父の顔が脳裏をよぎるが、それもすぐにプロデューサーの笑顔で上書きされた。
「いただきます」
意を決して、というほどの抵抗は、もう消えている。少し緊張、という程度のドキドキ。
ザクリ。そんな音がした。
歯応えの良い衣。熱い湯気。その中に、魚介類らしい濃い旨味と、ぷつりぷつりという食感が混ざる。
「どう?」
「美味しい」
強めの塩気は、衣に付いた下味だろうか。タルタルソースの丸い味と良く合っている。そして何より、それに挟まれても負けていない濃い旨味。これが、牡蠣の味なんだ。
私は2ピース目にフォークを差し、同じ食べ方をした。しつこくは無い。油っこくも無い。本当に美味しい。
「良かった」
プロデューサーが笑った。
その笑顔の理由が知りたくて、つい、聞いてしまう。
「どうして?」
「ん?」
ああ、しまった。私まで主語を飛ばすようじゃ、会話が成立する訳がない。
「プロデューサーは、そんなにあの仕事を、私にやらせたいんですか?」
「あ、いや、逆なんだ」
「逆?」
「逆、っていうか――」
あっという間になくなったフライドオイスターに続いて、殻付きの牡蠣が並んだお皿が運ばれてくる。
プロデューサーはスタッフにどうも、と返し、その皿の向きを私に合わせる。
「これが、今日最初のメインディッシュ」
「牡蠣グラタン?」
見た目は、そんな感じだ。殻付きの牡蠣にホワイトソースをかけて焼いたように見える。
「近いかな。これは、『オイスター・ロックフェラー』。グラタンとはちょっと違うんだ」
プロデューサーは1ピースを皿の端に寄せ、フォークで中身をすくって見せる。
「鮮度の良い牡蠣にほうれん草を合わせ、バターと卵を合わせたオランデーソースをかけて焼く」
確かに、そのソースの下には緑色のほうれん草が見えた。
「熱いうちが美味いんだ」
プロデューサーはトニックウォーターを大きく一口飲むと、殻を口元に寄せてフォークですくう。
ああ。
それは美味しいんだろうな、と頭の中で味が浮かんだ。
私も、トニックウォーターを一口。もう一口。口の中がさっぱりして、また塩気が欲しくなる。
私も1ピースを手に取り、口元に運ぶ。――飛び込んでくる、いい匂い!
「これ、美味しそうな匂い!」
思わず大きく息を吸ってしまう。鼻に届くのは、牡蠣の旨味たっぷりの湯気と焼けたバターの香り。
フォークをそっと差し入れ、殻の底から身をすくう。ソースとほうれん草を落とさないように、慎重に口へ。
バターの塩気。ほうれん草のやさしい甘味。一口噛むと、そこへ重なる牡蠣の強い味。
きっと、過去に食べたどんな貝よりも、どんな魚よりも濃い旨味。それが口いっぱいに広がっていく。
その旨味は熱で湯気になる。美味しい湯気が、口の中と鼻腔の中を埋めていく。
「表情は雄弁だね」
プロデューサーが、私の顔を見て笑った。まぁ、言い訳はしないわ。きっと、そんな表情でしたから。
口の中の牡蠣を充分に味わって、さらに喉越しを楽しむ。これは、本当に美味しい。
テーブルにそっと置かれたパン皿の上から、胡麻の入ったパンのスライスを取って口に運ぶ。
これでもか、と美味しさに圧倒された口の中で、小麦と胡麻の甘さが優しく広がった。
「雄弁というなら、プロデューサーだって相当ですよ」
「え?」
全くそんな意識は無かったらしい。それでも、普段のプロデューサーとの違いはあまりに大きい。
「このお店に来てからのプロデューサー、いつになく饒舌ですよ。どうしたんです? 急に」
私の問いに、プロデューサーは少し戸惑ったような顔をして、そして笑った。
「さっき、『逆だ』って言ったよね?」
「ええ、言ってました」
「律子にあの仕事をして欲しいから牡蠣を食べさせたかった訳じゃないんだ」
「え?」
ちょっと意味が分からない。逆? 牡蠣を食べさせたくて、あの仕事を?
いや、でもそれはおかしい。だって、プロデューサーは知らなかったはずだから。
「律子が牡蠣を嫌いって聞いて、なんとか好きになってもらいたくてさ」
「いや、だからその理由を――」
「うち、実家が広島なんだ」
初耳だった。そして、初耳がもう1つ。
「広島で、牡蠣の養殖やってるんだ。それで……」
それが、いつになく雄弁な理由。
それが、私の牡蠣嫌いを直したかった理由。
こんなプロデューサーはめったに見られないけれど、ちょっとカッコイイと思った次第。
「もし、興味があれば色々案内するよ。地元、ど真ん中だからさ」
きっと、広島に行ったらこんなプロデューサーの姿がずっと、見られるんだろうな。
そんな事を考えていると、ちょっとあの仕事が楽しそうに思えてきた。
「私、広島行きたくなりました。すごく」
「良かった。あの仕事、労働生産性高いんだよ。視聴率次第で上乗せも取り付けてるんだ」
仕事の話。でも、それほど堅苦しく感じないのはなぜだろう。
「最終日、朝一で終わりますよね。収録」
企画書の内容を思い返す。後に押す事は、まずない構成だった。
「じゃ、プロデューサーのご実家にご挨拶に行ってみようかしら」
「うちの親父、律子の大ファンだから、牡蠣食べ放題になるぞ」
それはそれは、実に楽しそうだわ。
その後のプロデューサーの笑顔は、本当に、輝くような笑顔だった。
"The world is
my oyster
【END】
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